先輩に誘われて「一見さんお断り・完全予約制」の和食屋で会食した.
といっても高級料亭などではなく,初老のご夫婦2人だけで営まれるごくごくこぢんまりした店.そういう店なので店名は書かない方が礼儀であろう.
事前にストリートビューで店構えを確かめたらあまりに小さくて目を疑い,足を運んでこの目で見た店舗も“場末のおでん屋”に見間違われても仕方ないような外観.えらく低いサッシのドアを頭を縮めてくぐる.
さて料理は言うまでもなく絶品だったのだが,それは皆さんご自分の舌で確かめてください.(←イヤミ)
本題はもちろん酒.
料理と並ぶこの店の決定的な売りは,石川県を代表して全国にその名を轟かせる
「菊姫」を全ラベル完備していること.最高ランクの菊姫は金を積むだけでは手に入らない代物らしい(ちょうど八海山の金剛心のような位置づけか)ので,そのことだけでも
この店が蔵元(あるいは取次店)からいかに尊重されているかが分かる.
筋金入りの日本酒好きの先輩ばかりと会食したので,料理を食べに行ったのか菊姫を呑みに行ったのかどっちやらで,それでも皆翌日のことを考えて控え目に控え目で
菊姫8連発で幕を引いた.
ちなみにメニューの写真を取り忘れてきたが,菊姫全部で20ラベル近くあったか.数えておけば良かった.
今回初めて知ったが,菊姫は全て
山田錦.
最近自分は,
- 水は言うまでもなく,
- 米も地元=当県開発の酒造好適米,
- できれば酵母も地元=当県開発の酵母or蔵付き酵母,
- できれば酒母中の乳酸も地元=生酛or山廃
という
“本物の地酒”にこだわっているので兵庫の蔵元でない山田錦酒(特にYK35みたいな)は避けつつあるのだが,菊姫ぐらいの別格になるとこだわりません(←権威に弱い).
さて
食べ始めて飲み始めて早々に酔いが回り始めたので味を正確に覚えているか自信がないのだが,忘れないうちに8連発一気記載(いつも書く細かい分類は今回は省略.
蔵元のウェブサイトでどうぞ).
菊姫1発目「先一杯(まずいっぱい)」(写真右)
メニューは右から左へ高級度が増すように並んでいて,どれから行こうか一同迷っていたら女将さんが右から4つ目ぐらいの「先一杯(まずいっぱい)」をラベルどおり勧めてくれた.(※右から2つぐらいは本醸造だった)
純米酒だが,いきなり,
え,これで「まず一杯目」のつもりなのかよ
という出来映え.細かくは覚えていないが,「きっちり・しっかり・良い出来に仕上がりました」という感じ.あかんでしょうこれは.
菊姫2発目「山廃純米・無濾過生原酒」(写真左)
生原酒好きの先輩が所望.
んー,自分はこのところ,火入れ・加水をして「これがうちの味」という調整をした酒をじっくり味わうのが好みになってきているので,上記の「先一杯」の「これのどこがまず一杯目やねん」というインパクトに比べれば穏当な印象(もちろん舌触りは生原酒ならではで穏当ではない).
っていうか,今の自分には生原酒のラベルごとの違いが分かりにくいなー….
菊姫3発目「大吟醸」
この頃既に酔いが回っていて「美味かった」という記憶しかない….
50%精米.
菊姫4発目「B.Y.大吟醸」
これだけだとラベルの意味が分からないが,菊姫の場合は熟成させてから出荷する品が多いらしいので,新酒の大吟醸には敢えて「BY」を冠して区別しているとのこと.「年ごとの違いをお楽しみ下さい」とな.
ということは今回呑んだのは21BYということか.
えー,「美味かった」です(笑).
菊姫5発目「鶴乃里」
純米です.
なんかね,それまでとは違う「お!」という感じがあったんだけど,忘れちゃいました….すごく旨味が深かったのかな…?
要は「美味かった」です….
菊姫6発目「黒吟」
明らかにこれまでとは一線を画して,一口で「古酒だ!」と分かる味わい.
色も山吹色が他に比べて強い印象.
あとで調べてみたら案の定3年古酒だった.蔵元によると「首吊り」「ビン貯」「三年もの」だそう.首吊りとは俗称で袋絞りのこと.それを瓶詰めしてからの3年貯蔵.
古酒ってもともと得意じゃなかった(というか本当に美味しい古酒を飲んだことがなかった)が,なるほどこれは美味い.
古酒にもはまりそう.
菊姫7発目「にごり酒」
これまでメニューを右から左へと遷移してきたが,一気に右へと揺り戻って右から3つ目だったか5つ目だったか.
ちょうどこの日が3月3日雛祭りで女性の先輩もいたので,白酒代わりに菊姫「にごり酒」.
「以前この店に来たときはトイレに籠もりっきりだったのよー」とあっけらかんと告白するお雛様に乾杯.
菊姫8発目「菊理媛(くくりひめ)」
そろそろ料理も大詰めという頃,ついに雛先輩が口を開いた.
「ここまで来たら, 菊理媛(くくりひめ),いっとくしかないでしょう」.
雛先輩,今日はまだトイレには籠もっていない.
自分はこのラベルはこの店で初めて知ったが,とりあえずメニューには副題のように「十一年古酒」と書いてあるだけ.
「11年古酒???」
10年古酒を酒屋の店頭で見かけたことはあるが,老ね香(ひねか)がよっぽどすごいんだろうと思って敬遠していた(つまり呑んだことがない).
しかし菊姫の最高峰である菊理媛(くくりひめ),いったいどんな味やら.
値段もまた破格である.
100ml入り程度のコップ1杯で「○千円!」(畏れ多くて書けません;通常のフランス料理店の一番高いディナーコースレベル).1人では絶対に注文できない.
あとでネットで調べてみたら一升瓶が「○万円!」(昔北海道を離れるときに思い出にと大奮発して泊まった洞爺湖のウィンザーホテル1室1泊より高い;その翌年サミットが開かれてビックリだった).
しかし一同酔っぱらって何の異存もない.
全員でコップ1杯をシェアするということで(それまでの酒も大方そうしたが),女将さんにオーダー.
するとコップに注いでくれながら女将さんが一言.
「
日本酒のうんちくがどうのなんて全部吹っ飛ぶ酒だからね」.
それまで生原酒がどうの山廃がどうのとさんざんうんちくを語り合いながら菊姫を堪能してきた我々だが,女将さんのその一言にシンとなって居住まいを正して一口ずついただく.
….
…….
……….
「なんだこの普通すぎる美味さは!」
一同全く同じ感想.
何も言われずに呑んだら,「ふむ,きっちり作られたバランスの良い美味しいお酒ですね」と簡単にコメントしてしまいそうな.
ある意味で,
「この酒のここがすごい」と言えるところが何もない.
でも数秒して気付いたが,「
これで11年ものの古酒なのか!?」.
老ね香(ひねか)ゼロ.
新酒と言われても疑わない.
そういえば色も殆ど無色透明.山吹色がない.
…決して,拍子抜けなどではない.「こんなものか」という底の見える感想などでは決してない.
何というのか,凄すぎて凄さが分からないというか,凄さが超越していてかえって普通になっているというか.
そこで雛先輩が歴史に残るコメント.
「ああ,酒も深まって極まっていくとグルッと元に戻ってくるんだね」
女将さんの言った
「日本酒のうんちくがどうのなんて全部吹っ飛ぶ酒だからね」に一同大いに納得.
先日ご縁あって,ある傑出した禅僧にお会いし親しくお話をさせていただいたが,誤解を恐れずに率直に申し上げれば「普通に良い方」だった.
「うわっ,大事了畢底の禅僧ってすごいな」というようなオーラとか威厳のようなものは微塵もなく,十牛図の十枚目「
入壥垂手(にってんすいしゅ)」とはこのことだったかとお見送りしたあとでようやく気付いたほど.
そのお坊様を思い浮かべるような,この菊理媛.
敬意を込めて,マイ評価させていただきました.
ラベル: 菊姫・菊理媛(くくりひめ)
マイ評価: ★×∞
- 蔵元: 菊姫合資会社(石川県白山市)
- 屋号: 菊姫
- 製造: 平成9年
- 酒米: 山田錦100%
- 精米歩合: 不明,でもどうでもいい
- 酵母: 不明,でもどうでもいい
- アルコール添加: 不明,でもどうでもいい
- 日本酒度: 不明,でもどうでもいい
- アルコール度数: 不明,でもどうでもいい
- 美味しかった呑み方: 冷蔵しか呑んでいない,でもどうでもいい
- 火入れ: してあるはずだが,でもどうでもいい