2009/12/01

漢方薬の保険適応外し!? 事業仕分けの“会議録”

 実に2年近く更新していなかったこのブログですが(ブログとして用を為していない),11月後半から話題の「漢方薬の保険適応外し」事案について資料をまとめたので公開します.

 私の理解による事の顛末は,下記の通り.
  1. 財務省は過去に何度も,現在医療保険で処方されている漢方薬を保険適応から除外しようと画策してきた.その都度漢方関連学会などが署名活動等で阻止してきた.
  2. 2009年に政権が民主党に移り,行政刷新会議による「事業仕分け」が11月11日から始まった.
  3. その事業仕分けにおいて,「後発品のある先発品などの薬価の見直し」というワーキンググループが11月11日に議論された.その中の提案の1つとして,「市販品類似薬の保険適応外」が財務省によって提出された.この「市販品類似薬」に,漢方薬が含まれていた
  4. 約1時間の議論中,市販品類似薬問題に触れられたのはわずか数分間に過ぎなかったが,評決結果は「見直し」として,「市販類似薬は保険外(ただし範囲については十分議論)」という決定が下されてしまった.
  5. それを受けて,11月20日より日本東洋医学会をはじめとする関連4団体が,書面ないしウェブ上で署名活動を始めた.
  6. 11月28日前後に,産経新聞,毎日新聞などで記事に取り上げられた.
  7. 12月1日(このブログの執筆時点)で集めた署名を一旦厚生労働省に提出し,記者会見予定とのこと.
 ネット上でもだいぶ話題になったらしいですね.

 そこで原典資料に当たるということで,ウェブ上で手に入る関連資料を下記にまとめました.

■仕分け人のメンバー

 最初に,そもそも今回の仕分け,「一体誰が仕分けしてるの?」がずっと疑問でした.新聞は丹念に読んでいるつもりでしたが,“必殺仕分け人”が誰なのか全然見当たらなかったのです.

 で,行政刷新会議のサイトでようやく見つけました.
 サイトのトップページ,「各種会議」の表中,「第2回 平成21年11月9日」の一番左欄
会議資料」をクリックすると,資料一覧が出てきます.
 この中の「資料1-1」「資料1-2」「資料1-3」が目指す評価者名簿(仕分け人一覧)です.特に関心が強いのは,
ですね.
 しかしこれも「(案)」となったままで,現実のそれぞれの仕分け現場(ワーキンググループ)で一体誰が臨席して評価していたのかは分からずじまいです.

 確かに自民党時代に比べればずっと“オープン”ですが,国家の予算編成を民間人に委ねている割りには「どの民間人なのか」がかなり不明瞭だと思います.

 それと,インターネットで中継したのは良いんですが,だったら中継終了後にその動画をどこかにアップしろよ,と思います.ニコニコ動画でようやく音声だけが聞ける,というのは実に中途半端です.第一,音声だけでは一体誰が喋っているのか,判別に苦慮します.


■ペーパー

 公開手法への批判はこれぐらいにして,次にペーパー資料です.

 医療関係者の間では「漢方適応除外」として知られるようになりましたが,仕分け作業自体の日時と名称は,

11月11日午後 第2ワーキンググループ 2-5
  後発品のある先発品などの薬価の見直し
です.
 この中で漢方薬の問題は,
市販品類似薬の保険適応外
として扱われています.

 その仕分けの出席者向けの配布資料が,行政刷新会議HPのトップページの右下「お知らせ」の一覧「行政刷新会議ワーキンググループ・資料集」の中にリストアップされています.その中の「11月11日」をクリックし,
が「後発品のある先発品などの薬価の見直し」の配付資料です.
 このPDFの7ページ目に,
④市販品類似薬の薬価は保険外とする
と題して半ページほど(たったの!)で主張されています.

 そして,約1時間の仕分け作業(議論)の結論として,下記のようなペーパーが公開されました.

 行政刷新会議HPのトップページの今度は左下,「新着情報」の一覧から,「行政刷新会議ワーキンググループ11月11日の第2会場評価結果について」をクリックすると,個別の評価コメントと,他のワーキンググループも合わせた全体の評決結果がアップされています.

 このうち評価コメントの中から「市販品類似薬の保険適応外」についての文言を拾ってみると,

  • 市販品類似薬は保険対象外とすべき。単価比較をすれば、市販品の方が安くなるデータもある。材料の内外価格差も同様。」
  • 「エ」の市販品類似薬を保険外とする方向性については当WGの結論とするが、どの範囲を保険適用外にするかについては、今後も十分な議論が必要である。」
です.

 そして評決結果の文言は,
  • 市販類似薬は保険外(ただし範囲については十分議論)」
となっています.

 いずれのペーパーも非常に簡素な内容に過ぎませんが,その分表現は断定型になっています.

■会議録の音声

 続いて,ニコ動にアップされている音声ファイルから,市販品類似薬を議論している部分を拾ってテープ起こし(“テープ”ではありませんが(笑))してみました.
 聞いてみると意外でしたが,1時間の議論はその殆どがジェネリック問題や製薬会社の利益問題,ドラッグラグなどに費やされて,市販品類似薬のことは冒頭の簡素な説明と,最後の方の限られた質疑応答で触れられただけでした.
 トータルで7-8分程度です.

 発言者が誰なのかは完全には把握できませんでしたが,テープ起こしと公開資料の突き合わせで判明した発言者一覧は下記です(市販品類似薬問題に関する部分だけです;敬称略).
  • 司会者…肩書き不明・氏名不明
  • 官僚…厚生労働省・医療課長・氏名不明
  • 官僚…厚生労働省・肩書き不明・氏名不明? ←追加分です
  • 官僚…財務省・肩書き不明・氏名不明
  • 議員…枝野幸男・民主党衆議院議員
  • 民間仕分け人…河野龍太郎・BNPパリバ証券チーフエコノミスト
  • 民間仕分け人…梶川融・太陽ASG有限責任監査法人総括代表社員
  • 民間仕分け人…長隆・東日本税理士法人代表社員
 以下,音源を聞いて私が思ったことです.
  • たった7-8分しか議論されなかったので,「保険適応除外のことはあまり重要視されなかった」という楽観的な解釈と,「極めて短い議論なのに保険適応除外の方向性が決議されてしまった」という悲観的・批判的な解釈の両方が成り立つ.
  • でもやっぱり,ジェネリック問題と一緒くたにして結論を出されてしまったという点では,危険か.
  • 明らかに,市販品類似薬問題の提案者は財務省であって,厚労省ではない.しかし財務省と厚労省が同席しているということは,厚労省は財務省の提案を阻止できなかった or 阻止するつもりがない(こっそり賛成?),ということらしい.
  • 「高齢者は薬の飲み残しが多い」という,本来は何の関係もないはずのデータを引っ張り出してきて「無駄」のイメージを植え付けさせて,市販品類似薬を保険適応外にしようとする魂胆が透けて見える.
  • 厚労省?または財務省?は「実はこういった議論は以前からずっとございました」と明言した.そのために湿布薬や漢方薬のユーザーがどういう人々なのかまで既にデータにしてある.つまり,厚労省?または財務省?は明らかに,保険適応除外を虎視眈々と狙い続けている
  • BNPパリバの河野龍太郎氏の発言にはかなり首をかしげる.河野氏は新聞の経済欄に分かりやすくて歯切れの良いコメントを書いておられるので個人的には評価していたが,医療制度に関しては認識が間違っておられるようだ.保険薬処方を「購入」と発言されたり,「無駄遣いを起こさせる悪い制度で,止めてしまえ」と発言されている.「悪い制度」と評されたのが漢方薬等の保険適応のことなのか,公的医療保険全体のことなのかは判然としないが,もし後者だとしたらラジカル過ぎる.
  • それでもかすかな期待としては,厚労省?または財務省?も表向きには「この問題には法改正と慎重な検討が必要」と発言している点です.少なくとも今回の仕分けの段階では,イケイケドンドンで漢方や湿布を切ってしまえ,という雰囲気までは至っていない.
  • でも穿った見方としては,「低姿勢に提案して外堀を埋めよう」とも受け取れる.だって,本当に慎重に考えているなら最初から提案する必要がないのだから

 では実際のテープ起こしです.《x:xx:xx》はニコ動の音源上の時間経過です.

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《0:00:42》
厚労省・医療課長から提案内容の説明があるが,市販品類似薬については全く触れず

《0:04:50》
次に財務省・肩書き不明者から提案内容の説明が続く.《0:07:40》から初めて市販品類似薬の保険適応除外について説明あり

《0:07:40》
財務省・肩書き不明・氏名不明
 4番目は,市販品類似薬,例えばビタミン剤・湿布薬・うがい薬,こういった薬局で買えるお薬については,公的保険でなく薬局で買っていただくことによって,例えば高齢者の方,薬を飲み残していらっしゃる方が半数近くいらっしゃる,こういった無駄が生じないようにすることが必要ではないかというものでございます.以上でございます.

財務省の説明が終わると,司会者が枝野議員に論点説明を促す

《0:08:43》
枝野幸男・民主党衆議院議員
前略】…その上で,あの別に,財務省が設定した論点で我々議論する必要は必ずしも無いんですが,厚労省の方からは「後発薬の問題など」ということでしたのでそこの説明しかなかったわけですが,財務省の方からは「医療材料」と「2%上乗せ」と,えー,説明がございました.
 その点についてもし特に最初にコメントしたいことがあれば,2分ぐらいであれば,先に厚労省コメントしていただいて,それから始めていただければと思いますが.

《00:09:27》
厚生労働省①・医療課長
 医療課長でございます.…【医療材料についてのみコメント;市販品類似薬については触れず

《0:10:24》
厚生労働省②?財務省 えー,それでは3番目の…【薬価2%上乗せについてコメント】.

《0:12:23》
厚労省②?財務省 それから4番目の「市販品類似薬の薬価は保険外とする」ということでございますが,ここにも例示として湿布薬ですとか,うがい薬・漢方薬などはと,いうことでございます.
 これにつきましては,実際にもしこれをやろうとするとですね,実際には保険診療で保険医の方もまた患者の方も治療に必要だからこの薬を使うという形にされてるわけでございまして,保険診療に必要であればですね,こういった薬を保険外と,いわゆる「保険外併用療養費」のような形でそれを導入するかどうかという形に実際はなろうかと思っております.
 その場合には当然,これをお使いになっている方から見ればこの薬代の部分が患者の自己負担が増えてしまう,ということがまずございます.
 で,その自己負担がじゃあ実際にどういう方になるのかということで,実はこういった議論は以前からずっとございましたので,私共の方でも色々検討して参りました.
 で,例えば湿布薬の場合ですと,圧倒的にお年寄りの方,特におばあちゃんていいますか,あの,方がお使いになっておりまして,あちらこちら痛いと言うときにお使いになっている方でございます.ですからそういった方々に負担が大きくなると.
 それから,漢方薬の場合はですね,実際に使われている方が圧倒的に女性の方が多いと,いうことがございまして,特に更年期障害ですとかアトピーですとか,そういった方々に非常にやっぱりケミカルではなかなか難しいということで漢方薬を使われている方が多いのが現状でございます.
 そういう中で実際にそういう方々にご負担が増えるということでございます.そういったその患者さんのご負担が増える部分について,どのようにして考えていくのかというのがこの論点だと思っておりまして,まさしく法改正も伴うものでございますけれども,まさしく色んな議論が必要な部分で,慎重な検討が必要ではないかと,いう風に考えているところでございます.
 以上でございます.

結局市販品類似薬問題についての説明が厚労省からなのか財務省からなのか,音源からは判然とせず.その後議論が始まるが,《0:55:10》に至るまでの約40分間はひたすらジェネリック問題やドラッグラグに議論が集中.時間に押されるようにして評決(どうやら投票用紙に書き込む形らしい)が始まり,それと平行して質疑応答が行われ,ようやく市販品類似薬問題に触れる

《0:55:10》
民間仕分け人/河野龍太郎・BNPパリバ証券チーフエコノミスト
 最後に残っている市販類似薬の薬価の保険外の話ですが,これはもう,方向は「保険外」なんですか?

厚労省②?財務省 ぃぇぃぇ…いえいえ…私共そんなこと申し上げておりませんで,これは当然法改正も含めた,患者の負担を上げる政策でございますので,実際それをどうするかというのは国民的議論が必要,慎重な検討が必要だという,私共の立場でございます.

河野 あの,それは方向性も,それはまだ,今からだと,いうことでいらっしゃいますか?

厚労省②?財務省 あのー,おっしゃるとおりでございます.…

河野 【厚労省②?財務省?が続けようとするのを遮って】あのですね,安く購入できるので,本来よりも必要以上に買っちゃうっていうケースが多いと思いますが,その購入する人はメリットがあるようにも見えるんですけれども,結局その負担は,今日の前のコマでも議論しましたけども,結局国民の税金,保険料にふりかかってくるわけですよね.結局より大きい保険…あの…税金になるということですよね.
 だから今の制度は気がつかないうちに一人一人の国民にですね,資源や税金や保険料のですね,無駄遣いを行わせてしまう悪い制度であるのでですね,基本的には止めてしまうべきだと.
 で,この無駄を取り除いて,個人が負担できないような高額医療のところに持っていく,などという方向であれば,誰も反対されないのではないか.
 だからきちんとした説明をすれば良いんでないかという風に思うんですが.

厚労省②?財務省 ですから私共は,この政策をやることによってですね,どなたに負担がどのくらいいくのかということをしっかり見極めないといけないと.
 先ほど申し上げたように,薬ごとに使っておられる方々がだいたい違いますので,そういった方々へのご負担が増えるということがございますので,そういったご負担が増えるところをですね,どのように考えていくのかと,いうことでかなり慎重な検討が必要ということを申し上げておるわけであります.

河野 あのー,利用されている方なのか,全体の保険者…全体の国民,どっちへのメリットが重要だという風に認識されているんですか?

財務省?厚労省②? ああ,それは,僕は,当然両方大事だという風に思っておりまして,実際に直接治療を受けられている方でありますとか,治療を受けられている方のご負担というのも考えないけませんし,全体として保険料支払われている方のご負担も,両方考えないといけないと思っておりますので.

河野 あの,治療っておっしゃいますけど,ビタミン剤とかの…

民間仕分け人/長隆・東日本税理士法人代表社員
河野発言を大声で遮って】ちょっと最後にあのー,財務省のペーパーで…ちょっと聞きたいことあるんだ.

司会者 あのちょっと,梶川さん先に.

民間仕分け人/梶川融・太陽ASG有限責任監査法人総括代表社員
 あ,す,すいません,あの,そういう意味で利害調整をされるわけですが,先程来から,そういう意味ではこれ,公的財なもんですから,パブリックなサービスなんで,そういう利害調整が起こると.
 で,基本的にはですね,この基本ポリシーをお聞きしたいんですね.さっきもお聞きしたんですが,ちょっとご回答いただけなかったんですけども,いわゆる公的医療の範囲というものはどういう風に基本的なポリシーとしてお持ちなのか.
 この薬価の,何を掲載されるかというのも同じ話だと思うんですね.
 でその,公的に,シビル・ミニマム(civil minimum)ではないんですけど,どこまでを公的なものとして…医療サービスというのは今後伸びて行かなければいけない成長分野だと思うんですが,どこをプライベートな財としてやるのかと.そこのところをですね,基本ポリシー的にどのようにお持ちかと.
 で,専門家のですね,所見・処方がなければ回復しないような緊急的な病に関して,それを国民に対してですね,シビル・ミニマムで回復させるんだとか.
 そういう意味でいえば,ビタミン剤がそこに入るのか入らないのかって,どなたの負担が多いか少ないかということはその次に出て来る問題であって,その前に基本的にどのように厚生省はお考えなのかということを,ちょっと教えていただければ…先ほどの診療報酬の方もですね,実は基本ポリシーがどこにおありなのか,ちょっとお答えいただけなかったんで.

司会者 どうぞ.

厚労省 あの,シンプルに答えますと,明確に病気や怪我であると思われるもの以外は保険から支払わないという構造になってます.従いまして,予防であるとか,単なるまあ気持ちが良いとか(笑),気分がちょっと良かったというものには支払われていない.それから,日本の場合は,眼鏡等々にも支払われていない,ということが言えます.

梶川 その時の処方として,こういったお薬がですね,不可欠なものであるかどうかということについては,どのようにご判断されるんでしょうか.

厚労省 今の状況だけでいうと,一見すると予防に属するようなことや,本人の気分で利用されているように思えるものでも,状況に応じては病気の回復や治療に不可欠な場合があり得ると思うので,そういう場合には保険から適応されていると言えます.

司会者 あのー,まだまだご意見たくさんあるかと思うんですが,だいぶ時間も超過しておりますし,あのー評価いただいた結果もまとまりましたので,ここでいったん区切らせていただいて……長さん,じゃあちょっと短めに.

 漢方薬を外すという風に財務省は書いてるけど,私は反対です.以上!

司会者 はい,それでは最後の取りまとめを枝野議員に……【以下,略】.

市販品類似薬問題の質疑応答は以上で打ち切り,以下,枝野議員によるワーキンググループの最終取りまとめに移る

《1:01:59》
枝野議員 【※ここで枝野議員は「市販品」を「市売品」と呼んでいる
前半,略】……「エ」【※=市販品類似薬問題】については,市売品類似薬は保険適応外というのは,15名中11名でございますが,最後に長さんにも言っていただいた話を含めて,これ,○を付けられた方の中にも,どの範囲が保険適応外ということについては充分な議論が出来ておりませんので,このグループの結論としては,市売品類似薬は保険適応外にすると,ただその適応外にする対象については充分な議論が必要であると,こういう整理でまとめさせていただきたいと思います.よろしゅうございますでしょうか.

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(※音声聞き取りに訂正--財務省か厚労省②か判然としない声がある--がありましたので12月2日付で追記しました)

 本日(12月1日)時点では既に全ての事業仕分けが終了して,政府(=内閣)は仕分け結果を尊重するという方針が確認されたところです.
 一方で長妻厚生労働大臣は,マスメディアに対して「漢方は切らない」と発言しています.
 したたかな財務省が今後どう出て来るのか,引き続き署名活動の拡大をお願いしたいところです.m(_ _)m
漢方を健康保険で使えるように
署名のお願い