一般診療所や救急外来でよく遭遇する小外傷(数針程度の縫合を必要とするような)は果たして抗菌薬投与は必要なのか?という疑問.
研修医時代の救急外来で当直医が小外傷縫合後に当然のように抗菌薬を投与するのを見てきて,盲目的にそのやり方を信じてきた.(もちろん洗浄やdebridementを充分に行うのが前提である)
しかし本当に必要なのか?無駄な投与を行ってきたのではないか?
Surgical Site Infectionの概念ではtraumaによる創は受傷から4時間を境に「contaminated」か「dirty」に分類される.
■An overview of surgical site infections: aetiology, incidence and risk factors --- Table 1
http://www.worldwidewounds.com/2005/september/Gottrup/Surgical-Site-Infections-Overview.html#Table1
しかしこの表をよく見ると「penetrating trauma」とあり,この語を別にGoogleってみるとどうやら「blunt trauma(鈍的外傷)」の対義語として「穿通性外傷」を意味しているらしい.
http://04.members.goo.ne.jp/home/matsubomb/cd/0.html
※真ん中下ほど,「【2】外傷の分類」参照
このページでは”大きな外傷”が扱われており,本稿で想定している小外傷とはあまり御縁がないかもしれない.
そこで検索キーワードとして「surgical site infection」ではなく「traumatic wound infection」を採用してみた.
主にGoogleで検索し,たまたまヒットしたPubMedのabstractから更にrelated articlesをたどって…という感じで探してみた.
以下,見つけたもの.
■Risk Factors for Infection in Patients with Traumatic Lacerations
Academic Emergency Medicine Volume 8, Number 7 716-720
http://www.aemj.org/cgi/content/abstract/8/7/716
http://www.ncbi.nlm.nih.gov/entrez/query.fcgi?db=pubmed&cmd=Retrieve&dopt=AbstractPlus&list_uids=11435186&query_hl=4&itool=pubmed_DocSum
【研究目的】
外傷性裂創(traumatic lacerations)において創感染と相関する因子は何か
【研究デザイン】
Cross-sectional study
【研究方法】
縫合を要した裂創で,抜糸時の感染の有無を測定.多変量解析でodds ratio(OR)を算出.
【結果】
患者5521人中195人(3.5%)に創感染あり.
Likelihood ratioが有意に高い因子として,
◆患者の年齢;1歳ごとにOR 1.01(1.0-1.02)
◆糖尿病;OR 6.7(1.7-26.4)
◆裂創の幅;1mmごとにOR 1.05(1.02-1.08)
◆異物の存在;OR 2.6(1.3-5.2)
逆に減少する要素として,
◇頭頸部裂創;OR 0.28(0.18-0.45)
【結論】
創感染の確率を決定する因子は創と患者の双方にあった.
■Prediction of traumatic wound infection with a neural network-derived decision model.
Am J Emerg Med. 2003 Jan;21(1):1-7.
http://www.ajemjournal.com/article/PIIS0735675702422279/abstract
http://www.ncbi.nlm.nih.gov/entrez/query.fcgi?cmd=Retrieve&db=PubMed&list_uids=12563571&dopt=Abstract
【研究目的】
Uncomplicated traumatic sutured woundにおける創感染をpredictする決断モデルを,人工ニューラルネットワーク(※)を用いて確立,評価すること
【研究デザイン】
Prospective cohort study
【研究対象】
教育病院のERにやってくる縫合を要する外傷患者
【研究方法】
治療担当の医師は標準化された外傷治療プロトコルを遵守.
医師は縫合終了後の創感染発生率を5段階評価(5-point scale)で予測.
創感染は抜糸時に盲検で観察.
ニューラルネットワーク解析を用いて,入力変数の重みづけと決断方程式(decision equation)の抽出
【結果】
1142件の外傷中,感染率は7.2%.
Predictive factorsは,
◆外傷の部位
◆外傷の時間経過
◆外傷の深達度
◆外傷の形状
◆外傷の汚染
◆患者の年齢
Decision equationを抽出するために,ニューラルネットワークを半数の件数を用いて訓練(train)し残りの半数で試行した.
抽出された決断モデルを創感染に対する診断検査として用いると,感度70%・特異度76%であった.医師では(医師による判断も診断検査として測定すると)感度54%・特異度78%であった.
【結論】
上記7変数を組み合わせて用いることで,ニューラルネットワークから抽出された決断モデルはuncomplicated traumatic woundの感染リスクを同定しうる.
(※)[人工]ニューラルネットワーク
Wikipediaより
http://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%83%8B%E3%83%A5%E3%83%BC%E3%83%A9%E3%83%AB%E3%83%8D%E3%83%83%E3%83%88%E3%83%AF%E3%83%BC%E3%82%AF
「ニューラルネットワーク(Neural network)は、脳機能に見られるいくつかの特性を計算機上のシミュレーションによって表現することを目指した数学モデルである。生物学や神経科学との区別のため、人工ニューラルネットワークとも呼ばれる。」
■A prospective evaluation of risk factors for infections from dog-bite wounds.
Acad Emerg Med. 1994 May-Jun;1(3):258-66.
http://www.ncbi.nlm.nih.gov/entrez/query.fcgi?itool=abstractplus&db=pubmed&cmd=Retrieve&dopt=abstractplus&list_uids=7621206
■Prophylactic oral antibiotics for low-risk dog bite wounds.
Pediatr Emerg Care. 1992 Aug;8(4):194-9.
http://www.ncbi.nlm.nih.gov/entrez/query.fcgi?itool=abstractplus&db=pubmed&cmd=Retrieve&dopt=abstractplus&list_uids=1513728
■Cat bite wounds: risk factors for infection.
Ann Emerg Med. 1991 Sep;20(9):973-9.
http://www.ncbi.nlm.nih.gov/entrez/query.fcgi?itool=abstractplus&db=pubmed&cmd=Retrieve&dopt=abstractplus&list_uids=1823783
■Cat and dog bites. What to do? Guidelines for the treatment of cat and dog bites in humans.
Acta Chir Belg. 2006 Nov-Dec;106(6):692-5.
http://www.ncbi.nlm.nih.gov/entrez/query.fcgi?itool=abstractplus&db=pubmed&cmd=Retrieve&dopt=abstractplus&list_uids=17290697
結局,縫合を要する小外傷においてどういうcriteriaで感染を予測し抗菌薬投与をどうすべきかまではこれら論文では決断出来なかった.
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